تسجيل الدخول窓から差し込む、きらきらとした陽の光。ふわりとカーテンを揺らす風が、頬を撫でて通り過ぎていく。 マーサの淹れてくれた紅茶も、格別の香りだ。
まさに完璧な朝の風景――の、筈だったのだが。「……ふむ。とても美味しいな」
陽の光がきらきらと反射する、さらりと揺れる黒髪。長い足を持て余すように組んで椅子に座る姿は、社交界の令嬢たちが悲鳴を上げそうなほど様になっている。すうっと切れ長の、女性が嫉妬するような長いまつげに縁取られた目は、煌めく深く青いサファイアがはめ込まれているよう。
一見、人形か何かかと目を疑うほど美しい男性は、優雅にティーカップを傾ける。……私の隣で。(いや……本当に慣れないわ。詐欺よ、詐欺だわ……)
じとりとした目で見られていても全く意に介さず、新聞をばさりと広げた彼は、「ほう……?」といたずらっぽく瞳を輝かせた。
「リーエ。ほら、ここの記事を見てみろ。――『王国全土を包む黄金の光、女神ロザリンデ様の祝福』だそうだ」
「……はぁ」 「俺たちのことも書かれているぞ。ほら、ここだ――『女神からの祝福、聖女に続き、神獣と契約した公爵令嬢が現れた』。有名人だな、リーエ」 「……あの。ロロ?」 「ん?なんだ?」あまりにも人に馴染みすぎている神獣様に声を掛ける……と、美青年はこてん、と首を傾げた。
そう――この、私の横で寛ぎまくっているイケメンこそが、『あの』神獣ロロなのだ。「……いえ。なんでもありませんわ」
「そうか」不思議そうな顔をしながらも、興味深そうに新聞に視線を戻すロロの姿に、私は再び小さく溜め息を吐いた。
新聞でも大きく取り上げられているらしい、王城へと呼ばれたあの日。 まばゆい光の中、私がロロと契約を結ぶと……光が収まった後にその場に立っていたのは、人間の姿になったロロだったのだ。 契約して完全な成獣となったロロは、神聖力を使うことができるようになった。 契約者である私と一緒にいるのに、この人の姿のほうが楽だ――とのことで、すぐに変化をしたらしい。 謁見の間にいた国王陛下や大臣たちは、目の前で起きた神獣の奇跡に、ある者は言葉をなくし、ある者は床に座り込んで祈り……と、結構な騒ぎになったのだ。 あの日から3日が経ったが、国中が神獣と契約した私を『神獣使い』として話題の中心にし、大いに盛り上がっているようだ。 当の私はといえば……もう、外出もろくにできなくて参ってしまう。「屋敷の前には連日、取材だとか神獣使いに会いたいとかで人だかりが出来ているし……はぁ」
「なんだ?あんなにも歓迎されているというのに、リーエは嬉しくないのか?」ロロの意外だ、とでもいうような声音に、私は大きく肩を竦めてみせた。
「嬉しいわけないでしょう。私が婚約破棄した時もこんな感じでしたし……みんな、面白がってるだけなのよ。私は見世物になる気はありません」
「ふむ。リーエは謙虚なのだな。名声には興味がない、か」 「名声だなんて、そんなもの……厄介なだけではないですか。それに、すごいのは神獣であるロロであって、私は唯の公爵令嬢ですもの」 「リーエくらいの年頃の娘ならば、こうもちやほやされれば喜ぶものだと思うが……。うむ、こう落ち着いてくれていたほうが、俺も安心できる。やはり、俺の目に狂いはなかったな」うむうむ、とひとり納得して満足そうにしているロロに苦笑する。
「神獣様にご満足頂けているなら、よかったですわ」
聖女ではなく私と契約したことを、今になって後悔されるより、どんな理由であれ満足してもらえるなら、そのほうが良い。
はじめのうちは、こんな美丈夫がロロだなんて、しかもずっと一緒に過ごすだなんて緊張どころの話ではなかったけれど、この3日でだいぶ慣れてきた。 たまに猫――といっても、成獣となった今は大きな黒豹のような姿――にもなるロロ。いい加減、屋敷の使用人や家族も驚かなくなってきたし、こんな新しい日常も、それほど悪いものとは思っていなかった。「さて、と……今日は何をして過ごそうかしら?」
窓の外に見える青空は、気持ちの良い色をしていた。
――一方その頃。
王城の豪華な一室では、黒髪の少女がしょんぼりと座っていた。「聖女様……お食事は、きちんと摂りませんと」
「そうですわ。お身体が弱ってしまいます」専属の侍女たちが口々に少女――アリサを気遣い、声を掛ける。
しかし、当のアリサは俯いたまま、静かに頭を振った。「ごめんなさい。食欲がなくて……」
「聖女様……」 「悪いけど、少しだけひとりにしてもらえる?」 「……かしこまりました」侍女たちは、渋々といった体で頭を下げると、食事を片付け紅茶とお菓子を置いて、部屋から出て行った。
ぱたん、と静かに扉が閉まってから、数秒。「……っはぁ~~~」
アリサは特大の溜め息を吐いて、部屋の隅にあるベッドへと飛び乗った。
「もー……。ほんっとやんなっちゃう!」
ぼすっと枕を殴って、大きな目をつり上げる。
「どうしてあんな……!神獣があんなぼろっぼろの猫だなんて、誰も思わないじゃない!」
ぼす、ぼす、と何度か枕を殴るけれど、やっぱり気が収まらなかった。
(私だって、あの猫が私のための神獣だっていうなら、頑張って助けたのに。……まぁ、私が嘘吐いたってこと、なんでか黙ってくれてたのはよかったけど)
本当にあの時は危なかった。まさかあの猫がしゃべれるなんて思っていなかったから……私が猫を奪われたって主張したことが、嘘だってばれなくて本当によかった。
(国王とかヴォルグ様とか……悪く思われたくないもの)
ごろり、と寝返りを打てば、豪奢な天蓋と、掛けられた美しい布が視界に入る。
肌触りの良い美しいドレス。広くて豪華な部屋に、なんでもお世話してくれる専属の侍女。美味しい食事。 ――私は聖女。聖女アリサ。 この王国を繁栄に導くとされて、大切に大切にされるべきだという聖女だ。(……あの神獣、かっこよかったな)
あの場で契約とやらをしたジュリエッタと神獣。
光が収まったあの場に立っていたのは、とても美しい黒髪長身の男性だった。 後から大神官に聞いた話だけど、神獣というのは、人の姿で契約者の側にいることが多いらしい。(あんなにかっこいい人が、ずーっと一緒にいてくれるなんて……うう、悔しい)
あれは、私のためのモノだったのに。
もやりと胸の内に広がる嫌な感情が気持ち悪い。(やだやだ。私の神獣盗られちゃうなんて、許せない。ほんっと、あの人キライ)
今日もヴォルグは、会いに来てくれるだろうか。最近、仕事が忙しいとかであまり会える時間が多くないのが残念だ。
(今日来てくれたら、新しいドレスとアクセサリーでも買ってもらおう。……あー暇すぎる……)
ごろごろ、ごろごろと広すぎるベッドで転がりながら、アリサは枕を放り投げたのだった。
窓から差し込む、きらきらとした陽の光。ふわりとカーテンを揺らす風が、頬を撫でて通り過ぎていく。 マーサの淹れてくれた紅茶も、格別の香りだ。 まさに完璧な朝の風景――の、筈だったのだが。「……ふむ。とても美味しいな」 陽の光がきらきらと反射する、さらりと揺れる黒髪。長い足を持て余すように組んで椅子に座る姿は、社交界の令嬢たちが悲鳴を上げそうなほど様になっている。すうっと切れ長の、女性が嫉妬するような長いまつげに縁取られた目は、煌めく深く青いサファイアがはめ込まれているよう。 一見、人形か何かかと目を疑うほど美しい男性は、優雅にティーカップを傾ける。……私の隣で。(いや……本当に慣れないわ。詐欺よ、詐欺だわ……) じとりとした目で見られていても全く意に介さず、新聞をばさりと広げた彼は、「ほう……?」といたずらっぽく瞳を輝かせた。「リーエ。ほら、ここの記事を見てみろ。――『王国全土を包む黄金の光、女神ロザリンデ様の祝福』だそうだ」 「……はぁ」 「俺たちのことも書かれているぞ。ほら、ここだ――『女神からの祝福、聖女に続き、神獣と契約した公爵令嬢が現れた』。有名人だな、リーエ」 「……あの。ロロ?」 「ん?なんだ?」 あまりにも人に馴染みすぎている神獣様に声を掛ける……と、美青年はこてん、と首を傾げた。 そう――この、私の横で寛ぎまくっているイケメンこそが、『あの』神獣ロロなのだ。「……いえ。なんでもありませんわ」 「そうか」 不思議そうな顔をしながらも、興味深そうに新聞に視線を戻すロロの姿に、私は再び小さく溜め息を吐いた。 新聞でも大きく取り上げられているらしい、王城へと呼ばれたあの日。 まばゆい光の中、私がロロと契約を結ぶと……光が収まった後にその場に立っていたのは、人間の姿になったロロだったのだ。 契約して完全な成獣となったロロは、神聖力を使うことができるようになった。 契約者である私と一緒にいるのに、この人の姿のほうが楽だ――とのことで、すぐに変化を
決して大きくはないその声に、謁見の間は水を打ったように静かになった。 声の主が、ひらりと私の肩から床へと降り立つ。「あ……貴方は、」 「聞こえなかったか?下がれ、と言ったんだ」 あれほどまでに勢いよく詰め寄っていた大神官が、再び発せられたロロの声に、一歩後退った。 すい、とお父様が立ち位置を戻すと、代わりに私の正面に立ったロロは、その小さい身体で堂々と、玉座を仰いだ。(こんなに小さな身体に、こんなにも多くの大人が気圧されるなんて……) 改めて、ロロが神獣なんだということを実感する。 そのまま固まったように沈黙してしまった大神官に代わり、静寂を破ったのは国王陛下だった。「先ほどの声は、貴方か」 静かな問いかけに、ロロは小さく頷く。「左様。俺の名は、ローエンマイン・ロジェルティア・アルファレア。お前たちが先ほどから話題にしている、神獣だ」 ロロの言葉に、遠巻きにしている大臣たちがざわり、とさざめいた。 国王陛下は、ふむ、と頷いて、席を立つとロロに向かって小さく頭を下げた。周囲の人々も、次々とそれに倣い、一礼する。「神獣ローエンマイン殿。まずはこの、アーヴェルト王国の国王として、挨拶をさせて頂きたい」 「ああ。よろしく頼む」 私はといえば、ロロのすぐ後ろで礼をとりながら、内心ハラハラしていた。 神獣は王族と並ぶ権威を持つ――それは理解しているが、ロロの国王への物言いが、どこまで許されるものだかわからないからだ。 幸い、国王陛下はロロの物言いに気を悪くはしていないようで、再び玉座に座り直した後も、柔らかな空気を纏ったままだった。「それで……神獣殿。貴殿が此度、神託にあった神獣ということで、間違いないのだろうか?」 「ああそうだ。俺は、そこの聖女のために、ロザリンデから遣わされた」 再び、ざわりと大臣たちが言葉を交わす。 一度は沈黙した大神官が、ぱっと表情を明るくして、何かを言おうと口を開いた――が。「――そう、俺は聖女のた
「久しぶりだな、ジュリエッタ令嬢」 「はい。ご無沙汰しております、陛下」 国王陛下は、優しい表情でうんうんと頷いてくれた。 私は、幼い時から第二王子ヴォルシングの婚約者だった。必然的に、国王陛下や王妃様に会う機会もとても多く、優秀な子だと、大変可愛がってもらっていたのだ。 ――異世界から、聖女がやってくるまでは。 しかし、婚約を破棄しても、陛下や王妃様から嫌われているわけではない。 今回も、話すら聞かず私に罪を問うような空気ではないことを感じて、私はほっとした。「本当に、元気に過ごしているようでよかった。こんな朝早くから呼び立てて悪かったな。実は、今朝早く、神殿に神託が下ったのだ」 「神託、でございますか」 「ああ。内容の説明は、同席させている大神官からさせよう」 陛下がすっとアリサの後ろへと視線を向ける。それを受けて咳払いしたのは、初老の男だった。 ずるりと床を引きずるような、真っ白に金の縁取りがなされた神官服。袖の部分に3本のラインが入っているのは、大神官である証だ。 その男は衣擦れの音をさせながらアリサの前へと進み出ると、厳しい目で私を睨み付けた。大神官には、あまり良く思われていないらしい。「……あー、えっほん。私は、この首都にあるロザリンデ教、主教会の大神官を務めている、ラニエルと申します。本日の日の出の頃、我が神殿の祭壇へと、神の御言葉がおりたもうたため、急ぎ国王陛下へと報告をいたしました」 丁寧に前置きをして、大神官は丁寧に頭を下げた。不機嫌な顔はそのままだが、きちんと礼儀はなっている人物のようだ。「それで、ロザリンデ様は仰られたのです。我が忠実なる遣いを、地に与えたもうた。聖女と共に、この国に繁栄をもたらせるだろう――と」 神の神託を朗々と告げると、胸元のロザリンデ像をかたどったネックレスを握りしめ、大神官は口早に祈りの言葉を呟いた。 ――女神ロザリンデ。このアーヴェルト王国において、王国の繁栄を約束し、豊かな実りと平和を授けてくれると言われている、女神だ。 この国に現れる異世界からの
茶番というか、見世物というか。 すさまじい泣きっぷりを披露しているアリサの次に、玄関口から飛び出してきたのは、第二王子その人だった。 ……私の幼馴染みであり、元婚約者であり……そして現在、聖女アリサの婚約者である、ヴォルシング・アーヴェルトだ。 私よりもふたつ年下の彼は、赤みがかったくすんだ金髪に、王家に伝わる紫の瞳をした、少年らしさの残る、可愛らしい美丈夫だ。年下のくせに、身長ばかりぐんぐんと伸びて、今では私の兄様方と変わらないくらいの長身になっている。 そういえば、会うのは婚約破棄をして以来だったな、と、ぼんやり思った。 彼はわんわん泣くアリサと、そしてドン引きしているこちらを順に確認して、アリサの横を通り過ぎた。「ヴォルグ様ぁ!」 「少し待て、アリサ」 縋るようにヴォルシングのズボンに手を伸ばしたアリサは、彼の静かな言葉に途端に喚くのをぴたりとやめる。 すすり泣くアリサを背後に、ヴォルシングはお父様の目の前まで行くと、小さく頭を下げた。「ユロメア卿。すまない、出迎えが遅れたな。……それから、その、少し……騒がしくしてしまって」 「ご機嫌よう、殿下。……そちらの聖女様のことは、よろしいのですか?」 決まり悪そうにしているヴォルシングへ、お父様がしっかりと頭を下げつつ尋ねる。怒ると言うより、呆れているような口ぶりに、ヴォルシングはそっと肩を竦めた。「俺は王族として、貴殿を出迎えに来たのだ。挨拶が先だろう」 「仰る通りですな」 ヴォルシングは、次に兄様たちへと会釈をして――最後に、私へと向き直った。 声を掛けられる前に、と――私はすっと、ドレスの端を摘まんで広げ、身体を沈ませる。「……久しぶりだな、ジュリエッタ……いや、ユロメア公爵令嬢」 婚約者でなくなった以上、今まで通り、互いを名前で呼び合うことも失礼なことだ。(ヴォルグは、しっかりしていて助かったわ) 「はい。お久しぶりでございます、殿下」 返事をして姿勢を戻す。と――ヴォルシングは、何とも言えな
ほんの僅か、白髪の交ざる髪を乱して、ついでに衣服もヨレヨレというものすごい外見で、お父様が素早く部屋の中を見渡し――。 やがてその視線は私と、私の膝でくつろいでいるローエンマイン様の姿を確認した。途端、音が聞こえるんじゃないかという勢いで、お父様の顔色が真っ青になった。「なんということだ……。いや、まさか、そんな……」 「お父様、どうなさったのですか?」 手で顔を覆い、がっくりと肩を落としたお父様の姿に、嫌な予感がする。(ただでさえ、ローエンマイン様から契約を迫られて困ってるっていうのに……また何か、厄介ごとでも起きたっていうの?) あまりにもショックを受けたお父様の姿に、お母様が立ち上がり、そっと寄り添った。「……あなた。何がありましたの?」 「……ああ。そうだな。すぐに出発しないといけないんだ」 「まぁ、どちらへ?」 多少冷静さを取り戻したらしいお父様が、お母様の手を握り、やっと顔を上げる。 その表情はとても、困り切っているように見えた。「説明は馬車の中でするから。ジュリエッタ、すぐに出掛ける準備を。……その、『膝の上の御方』も、お連れしなさい」 ……どうやら、私の悪い予感は的中したようだった。 お父様が、何か話を聞く前に、私の膝の上のローエンマイン様を、『膝の上の御方』と呼んだ。それだけで十分だ。「わかりました。すぐに王宮へ向かう準備を致します」 そう返事をして、ローエンマイン様を抱えて早足で自室へ戻る。 身支度を調えて屋敷からでると、玄関口には既に、正装に着替えたお父様とお兄様たちが揃っていた。お母様は、屋敷に残るらしい。 見送り際、お母様は私をぎゅ、と抱きしめて、ローエンマイン様にはそっと頭を下げた。「神獣様。娘を、どうかよろしくお願いいたします」 「案ずるな。ジュリエッタのことは、必ず守る」 馬車はいつもより速い速度で、王宮へと走りだした。私の隣にお父様が座り、向かいにはお兄様たちが座っている。 いつもより少しガタガタと
「……と、いうわけですの」 「…………」 翌日。 私は談話室にて、お母様とお兄様たちを前にして、冷や汗を流していた。 半ば尋問のような雰囲気の中、ローエンマイン様についての全てを説明し終えた私に、沈黙が重くのしかかる。 こんなことになったのは全て、今私の膝で満足そうに丸くなって喉を鳴らしている、ローエンマイン様のせいだった。 結局、一晩中契約を迫られ、断り続け……そんなことを続けている間に朝になり、私の様子を見に来たお母様に対して、あろうことかローエンマイン様がしゃべったのだ。「……む? ジュリエッタの母君か。世話になっている」――と。 当然、お母様は驚き、猫がしゃべったと悲鳴を上げ、それを聞いてお兄様たちがばたばたと駆けつけてくる騒ぎとなり……。 あれよあれよという間に、朝食を兼ねた軽食が並べられたこの談話室にて、取り調べが始まったのだった。(もう……どうしてこんな目にー) 嘆いたところで、ローエンマイン様が神獣であることには変わりない。 彼を助けると決めたのは私なのだから、責任を取らないといけない、とも思っている。 でも……。 ちら、と、正面に座るお母様たちの顔色を窺う。 お兄様――上のお兄様が深い溜息を吐いたのは、その時だった。「――ひとまず、事情はわかった」 「アルト兄様……」 上の兄――長男アルト・ユロメアは、私と同じハニーブロンドに新緑色の瞳の美男子だ。 頭脳明晰なお父様の部下として、また王城にて政治に関わる出世頭として、社交界でも人気の独身男性。 そんな完璧人間の長兄に続いて、下の兄――次男ウォルター・ユロメアが、静かに頷いた。「やはり、リーエは天使のように優しいのだな。さすが俺の妹だ」 「ウォルター兄様……!」 「なんだリーエ。俺は間違ったことは言っていない」 ウォルター兄様は、新緑色の瞳に、お父様譲りの短い茶髪をツンツンさせている。こちらももちろん、アルト兄様と別タイプの美男子として有名だ。







